和文化サラダは日本文化のエッセンスを
サラダボウルのようにいろいろ体験できる講座です。
季節をテーマとして、その道の先生に優しく楽しく語っていただきます。

これは和の学校ボランティアスタッフが「サラダ隊」となって
それぞれの感性で書く「和文化サラダ」レポートです。

平成18年10月〜平成19年3月 講座内容と各先生のプロフィールはこちら。

平成19年4月〜9月 講座内容と各先生のプロフィールはこちら 申込みも出来ます。

読売新聞ホームページでも掲載されました。


和文化サラダ 第9回 平成19年7月5日(木)


  暮らす 〜祭から学ぶこと〜
 
レポート:サラダ隊 賀茂なす  写真:松尾宇人 吉田明彦

第1部 杉本 節子 さん 講演
優しい京言葉と着物姿が美しい杉本節子さん。
いつもと違って、夏座布団に座っての聴講。

エアコンがなくても庭からの風が意外に涼しく、
蚊取り線香の香りも心地よいものでした。

耳を澄ますと
ときどき祇園囃子の稽古の音が聞こえてきました。
祭の準備には、男性は山の飾りつけなどを、
女性はお供え物や台所のことなどを、
きちんと分担をして行います」

「最近はマンションが建ち、
町内にも新しい人が増えましたが
そこにいる方も、子どもさんを連れて来られて
準備に参加されたりします。
祭というものは
良い交流の場だなぁと思っています」

祇園祭の準備の写真や
古文書『歳中覚(さいちゅうおぼえ)』の
写真などを使って
丁寧にお話をしていただきました。
「和文化サラダ」初の女性講師
杉本節子さんに、
「心豊かに暮らすこと」
「自然に寄り添って暮らすこと」
についてお話していただきました。


【 京商家の暮らしと祇園祭 】

1.個の文化

一般的な京都の人々の生活を
「“京町家”の暮らし」と、
ひとくくりにすることが多いですが、
町家は『個』の文化。

それぞれの家には固有の
「ならわし」や「しきたり」があり、
代々受け継がれてきた
ルールに基づいた生活を送っています。

”京町家”とひとつにまとめられるものではありません。

杉本家の「個」の特徴は、大きく分けて3つあります。

 1)商家

呉服商であったことが特徴のひとつです。
商家(呉服商)特有の家の造りやしきたりなどが多数見られます。

 2)門徒の家

西本願寺の門徒であるため、信仰に根差したならわしも存在します。
例えばお正月に注連縄や鏡餅が無いなど、一般的な慣習と違う点もあります。

 3)家持六人衆

祇園祭の際
「伯牙山(はくがやま)」を出す町内であるため、
祇園祭における役割が存在します。
また生活自体が、
「ハレの日」である祇園祭と、
「ケの日」ともいうべき日々の暮らしに大別されます。

これら「個」の特徴の下、
日々の暮らしが営まれていました。


2.商家の暮らし

商家の暮らしにもさまざまな特徴があります。
興味深いのは、
彼ら京商人が学問に
根差した生活を送っていたことです。

京商人の心の支えとして、
石田梅岩の「心学」という学問が広がります。
心学は、禅の思想体験を
朱子学の言葉で語ったもので、
知性・知心、知足・知分、
忠孝、倹約、正直・勤勉
などを美徳としていました。

商家の暮らしは質素倹約を信条とし、
特に「食」の方面で贅沢を戒め、
質素な生活を送っていました。

質素倹約を旨としていたのは、
商売繁盛のためでもありましたが、
“お上に睨まれない”ためや、
“分相応”を考えたことでもあったようです。


3.古文書から見る町家の生活

杉本家に伝わる古文書には
『歳中覚(さいちゅうおぼえ)』
『教文記(きょうもんき)』
『定書(さだめがき)』
などがあります。

古文書には、
年中行事や時期ごとの
“すべきこと”が書かれています。
また家政をうまく営むための
手引書もあり
「○日には○○を食べる」など、
日々の食事についても
事細かに規定されています。
日々の暮らしに関する
「ならわし」や「しきたり」は、
古文書の記載内容を
参考にして営まれていました。

しかし古文書に書かれた内容は、
普遍的なものではなく、
杉本家独自のものや
地方由来の内容も多数含まれています。

さらに世代が変わると
「ならわし」や「しきたり」も変化していくことからも、
京町家の暮らしが
「個」の文化であることがわかります。


4.祇園祭

質素倹約を心がけ、
正直に勤勉に商売をした結果、
商家には蓄財ができることになります。

その蓄財を投入して飾ったのが、
祇園祭の「山」や「鉾」です。

当時は、山鉾を飾ることがステータスでしたので、
商家は惜しみなく蓄財を祇園祭のために用いました。

祇園祭の「山」にはそれぞれ背景や由来があります。

例えば「郭巨山」「孟宗山」は、
親孝行の話を収集した中国の説話「二十四孝」を題材とするなど
儒教由来のものが見受けられます。

儒教の影響が色濃いのは
商家の拠り所であった心学の精神が、
祇園祭にも反映されたから。

祇園祭は、京都の商家の祭りだったのです。



第2部  杉本家見学
杉本家の台所。使い込まれた美しさ。
おくどさんもあります。


第2部では、各人が自由に
杉本家住宅を見学しました。

お庭や台所、各お部屋など
ゆっくりと見せていただきながら、
質問にも答えていただきました。

杉本家住宅は、
典型的な大きな京町家の造りをしています。
以前、お商売をされていたため、
「店の間」など商家ならではの部分もあります。

格子の上部を切り止めることで
光を多く取り入れている
「糸屋格子(いとやごうし)(別名:京格子)」、
京町家によく見られる
「犬矢来(いぬやらい)」なども見られ、
またひさし部分は「かしき造り」と呼ばれる、
軒下の深い造りになっています。

杉本家では年に2回、
季節を快適に過ごせる室礼にするための
模様替えを行います。

夏の室礼に変えるのは6月末。
すでに7月に入っていましたので、
この日は「夏の室礼」が拝見できました。

京都の夏を
できるだけ涼しく過ごそうと「すだれ」や
「網代」などを使った、
工夫と知恵が随所に見られるお部屋です。

一部の部屋以外にはクーラーがなく、
会場も扇風機とうちわで涼をとっていましたが、
予想以上に心地よく過ごせました。

また、屏風や掛け軸は、
祇園祭の時に使用するものを飾っていただきました。
ひと足早い祇園祭り気分を
味わうことができたのではないでしょうか。

皆さんからは「昔はこんなだったのね」との感嘆の言葉のほか、
「お掃除が大変そう!」という声も上がっていました。



皆さんの質問に答えられる節子さん。
夏の敷物である「網代(あじろ)」や「油団(ゆとん)」が敷かれていたり
今の暮らしには見ることができないものが、たくさんありました。
祇園祭の山鉾が描かれた屏風。
本日のお花:ヒオウギ
花政

祇園祭の時によく使われ、扇に見立てられます

今回のお菓子は、
三條若狭屋さんの「ちご餅」。
求肥の中に白みそ餡を入れ、
竹串に刺して、表面に氷餅をまぶしたもので、
祇園祭にちなんだお菓子です。
その後は、「ちご餅」と冷たいお茶をいただきながらのほっこりタイム。

質問もたくさん飛び出します。

問)お庭の手入れなどはどうされていますか?

答)
座敷庭、仏間庭など、庭は複数箇所に別れます。
年数回は職人さんに入ってもらいますが、
日ごろの手入れは家族で行ないます。
常緑樹が多いですが、一部落葉樹もありますし、
花の季節には「花ガラ」もとらなければなりませんので大変です。

問)祇園祭の期間中、子どもはどう過ごすんでしょうか?

答)
山鉾町では、子どもたちに
「粽(ちまき)」を売る当番があります。
この売り子がとっても楽しいんです。
学校がお休みかどうかは地域によりまして、
四条より上手は朝から休み、下手は1限だけあります。
杉本家住宅は四条より下手ですから、
学校から帰ってから参加していました。
このあたりの会社はお休みになりますし、
山鉾町の人たちはお供衆としての役目もありますから
仕事をお休みします。
1週間くらいは仕事が手につかない状態ですが、
町内で山や鉾を守っていくのも大切な役割の一つなのです。

問)子どもの頃と今とでは、風景が変わりましたか?

答)
随分変わりました。
すぐ隣がマンションというわけではありませんが、
四条や西洞院にはビルやマンションが増えました。
風向きや光の入り具合も変わりましたし、
何よりも空が狭くなったと感じます。


最後に、杉本節子さんからの「杉本家保存会」についての告知などもあり、
和気藹々としたムードで閉会しました。


サラダ隊 賀茂なす の思ったこと
本日のお花:
枝モノ(アブラドウダン)、
カワラナデシコ、キキョウ、ホタルブクロ
花政

   建物のほの暗い雰囲気に映えるように、
白い花を中心にアレンジ

杉本家住宅に場を移して開かれた和文化サラダ。

和文化サラダ初の女性講師ということもあってか、
はんなり、ほっこりとした講座になりました。

随所に「祇園祭」の風情を感じる室礼や
小道具などが登場し、
ひと足早い祇園祭気分が満喫できたのではないでしょうか。

今回は「京の暮らし」がテーマ。

聴きに来られた方は、
京都の方が中心だと思いますが、
杉本家のような生活をされている方は、
ごく稀だと思われます。

新しいものは快適であることも多いですから、
昔ながらの生活を
守り続けることはなかなかに難しいことです。

しかし、このまま絶滅させてしまうのではなく、
古くから続く暮らしを大切にしていきたいとも感じます。

賀茂なす家は、
比較的年中行事を大切にしていますが、
それでも年々簡素化されてしまいます。

「面倒だ」とか、「必要ない」とか思わずに、
ほそぼそとでも続けて行きたいものです。

「個」の文化を我が家でも守るために、
賀茂なす家の「覚書」を作ろうかしら?と、
ほんの少しだけ思いました。
 
当日のアンケートから
祇園祭から、色々なお話が聞けてとても楽しかったです。
今日のお話の中にあった「個」から現在の右にならえの面白味のない文化をとても残念に思いました。
家族のルール(家訓)、近所の・・・そして町内の慣わしと
個と集団とを上手に生きている昔の人々に色々学ぶべきところが多いなあと感じました。
私は去年祇園祭を初めて見物し、この杉本家にも上がらせて頂きました。
その時は動くものも動かないものも含めて美術品の数々に感動しました。
今回のお話を聞いて、この場に住む人の生活、
祇園祭のそれぞれの側面に込められた意味を知って、
とても感慨深いものがありました。
ふだん質素な生活をしていた商人が
年に1度の祇園祭にかけた意気込みはいかばかりだったかと思わせられました。
最近の町家特集では知ることのできない、
現在の暮しを支える歴史や文化のお話を伺うことができ、たいへんよかったです。
杉本節子さんの存在感、美しさに見ほれてしまいました。
節子さんから日本の京都の女性のすばらしさを感じました。ありがとうございました。
しきたりやならわしのある生活は、きゅうくつな感じもしますが、
毎日背すじがのびるような凛とした生活を過ごせそうであこがれます。
節子さんは私と同じ年のようですが、とても素敵で
私もすこしでも節子さんの様な京美人に近づける様、見習わせていただきたいと思います。
貴重なお話とお家を拝見させて頂きありがとうございました。
祇園祭の裏側を知ることができて、
今年はまた違った目線で大好きな祇園祭を見ることができると思います。
ありがとうございました。

生きた、生き続けている空間の中で感じる、実感!
晴れの行事を支える日々の苦労とあたりまえ。
自然体の中に見えかくれする芯の強さ。
節子さん、ほんまえらいなあ・・・。応援したいなあ。
そして、和文化サラダ、ありがたいなあ。


スタッフ後記
いつもきれいなお花を
ありがとうございます!
花政
の井上さんです。
後期の和文化サラダは出張版が多いのですが、
その中でも今回はひと味違う講座になりました。

広間におざぶを敷いての会は、
机とイスや、机と座布団で行なう会とは違ったもの。
なんだか親戚の家にお呼ばれしているような、
不思議な雰囲気を感じました。

杉本節子さんのお話が面白かったせいでしょうか。
本やDVDの売れ行きも過去最高。
杉本節子さんが、1冊1冊丁寧にサインをしてくださいました。
「奈良屋杉本家保存会」に入会された方もいらっしゃいました。

また特別に用意していただいた
「伯牙山」の粽は完売。
スタッフの中には買えなかった人もいたとか、いないとか。

今回の講座で「暮らし」に興味を持たれた方は、
杉本節子さんの著書やその他の本などを参考にして、
今までよりも少し「暮らし」を大切にしてください。

また杉本家住宅の維持・保存に協力される方は、
「奈良屋杉本家保存会」にご入会ください。

【 奈良屋杉本家保存会 】
http://www.gyoutai.com/kyoto/sugimotoke/hozonkai.htm

「杉本家」の維持・保存に協力していただける方を募集しています。
財団の主旨をご理解の上、是非ご協力をお願いします。

 

たくさんの方が、節子さんの著作を買われました。
一冊ずつ丁寧にサインをする節子さん。
皆さん、すっかり節子さんの
ファンになってしまったようでした。
本日のお花:金華山ススキ、白糸草
花政

織り姫をイメージしたお花で
七夕にちなんだ取り合わせです。
次回は、8月26日(日)水―すべての源― 鈴木 康久先生 と 高井 和大 先生です。

平成19年4月〜9月 講座内容と各先生のプロフィールはこちら 申込みも出来ます。


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